梅津慶一 diary

たことねこ

アガペー④

僕が、今の家に引っ越してきたのは半年ぐらい前のこと。友達はほとんどいない。それは慣れっこだから、別にかまわない。予想外だったのは、T・Nのことだ。Tは、クラスを暴力的に支配していた。といっても、殴ったり、けったりすることはあまりない。肩に腕をまわして、「てめえ、調子に乗るなよ」とすごむだけだ。

クラスの多くの男子がこれをやられて、Tを恐れている。本来ならクラスのムードメーカーになりそうなS君、K君、O君などが、常にTを意識して積極的に行動することをためらっている。

こんな学校は初めてだ。今までの学校なら、元気のある生徒がクラスを引っ張っていた。休み時間にサッカーをしたり、先生の物まねをして笑いあったりしていた。

それなのに、今、僕がいる桜台中学校2年3組はいつも静かで、すべての生徒がTを意識して行動している。

そして最悪なのは僕の家とTの家が300メートルほどしか離れていないことだ。

Tは野球部なので、普段は僕一人で登下校する。だが、定期テスト前の部活停止期間には、一緒になってしまう。Tは僕や気の弱い何人かを従えて下校する。そして、「カバン持ちじゃんけんやるぞ」と言って、じゃんけんに負けた者が全員のカバンを肩にかけて歩くことになる。じゃんけんでTが負けることもある。そうすると、Tは全員のカバンを持って、電信柱3本分を走り出す。(じゃんけんに負けるとみんなのカバンをもって電信柱3本分運ぶルールなのだ)そして、また、じゃんけん。

Tはじゃんけんに勝ったときはゆっくり歩く。王者の貫録。

早く帰って、テスト勉強をしたいのに。

この学校に来てから、僕はだんだんとテスト勉強をしなくなっていった。そして今では、国語のテスト勉強しかしていない。授業でやった文章を読み返すだけ。

それでも、各教科とも、平均80点はとっている。

ウチの親はあまり教育熱心ではないから、怒られることもない。