第4の猫⑥
「わたし、やっぱり高校辞める」
僕とキューイちゃんに向かって塔子さんは宣言した。
僕は偉大な発言に対して拍手を送った。
盛大な拍手は長らく続いた。
口笛をヒューヒュー鳴らすやつもいた。
「それで、おじさん。
わたし、どうすればいいと思う?」
「専門学校だな」
私は即座に断言した。
「ふーん、何の専門?」
「調理だよ。料理の作り方を勉強するんだ」
「・・・料理か。まあそれでもいいかな」
「僕がいい学校を調べておくよ」
僕は専門学校案内の分厚い本とインターネットを駆使して、お姫様の学校をさがした。
結局、彼女は僕が選んだ調理師専門学校に入学した。
例の電車で10分の駅にある大手専門学校だ。
2年間まじめに通ってほしい。
こんな僕の気持ちを裏切るように、彼女はキャバクラでバイトを始めた。
駅前でスカウトされたんだと。
まあ、僕がスカウトマンでも、彼女に声をかけるだろう。
「キャバクラはだめだ。人生を失敗してしまう」
私の説得も効果はなかった。
しかし、彼女はキャバクラをやめた。
というか、やめさせられた。
生意気な先輩キャバ嬢をぶっとばしたのだ。
いやあよかった。
生意気な先輩キャバ嬢が今年のMVP確定だね。
キャバクラをあきらめた彼女は、飲食店でバイトをしたり、カラオケボックスでバイトをしたり、たまに学校に行ったりしていた。
2年生の後半に、中堅のファミレスに内定してからは、猛烈に勉強をはじめた。
調理師の資格をとらないと就職できない決まりだ。
僕とキューイちゃんは彼女に負けないくらい猛烈に応援した。
なんとか合格証書を手にした彼女は「やっぱ、わたしってすごい」と笑っていたが、僕とキューイちゃんは号泣したものだ。
ファミレスに入社した彼女は、茨城県の店舗に配属になり、引っ越して一人暮らしをはじめた。
僕とキューイちゃんは遠くから見守るしかない。
メールで「大丈夫?」と聞くと「まあ、なんとか」なんて返事が返ってきたものだ。
そんな日々が2年ほど続いた。