とある別れのシグネチャー。
土曜日夕方の新宿中央公園に人気は少なかった。
ベンチに座る私と彼女の絆は、もはやそうめんのように細かった。
さっきから静かに泣いている彼女。
5年ほども付き合った私たちにも、つらい別れがやってきたのだ。
大学を出て就職した会社で出会ってからもう5年ほどになるだろうか。
大人の恋であるから、ディズニーランドでタピオカ入りの飲み物をもってアトラクションの列に並ぶ、といったことはほとんどなかった。
土曜日の午後に新宿や渋谷で待ち合わせて、なんとなく街を一緒に歩く。
小奇麗なレストランを見つけたら、入っていってなんとなく食事をする。
そのあとは、酒の飲める店でしゃべりながら1時間ばかり時間をつぶす。
そのあとは・・・。
私も結婚というものを意識しないわけではなかった。
しかしやはり、残りの人生を、彼女と共に過ごし、ふたりの子供の成長を見守るということに捧げることに納得できなかったのだ。
結婚をめぐってふたりで何度も話し合った。
その結果が、泣いている彼女である。
冷たい秋の風がふたりを吹き抜けていく。
もう、話すべきことはすべて話し合った。
「駅まで送るよ」
「・・・・・・」
私がしぼりだした言葉はたばこの煙のように虚空に消えていった。
5分ばかりしてから、彼女は立ち上がった。
「さようなら。今までありがとう」
涙のあとの残る顔で彼女は言った。
「駅ならひとりで行けるわ。それじゃあ、本当にありがとう。あなたと出会えてよかったわ」
そういって彼女は人気の少ない西新宿のビル街を歩き出した。
私はひとり、ベンチに残されて、彼女の後姿を眺めながら、彼女との日々を振り返っていた。
そういえば、いつだったか、彼女が言っていた。
「あなたは私よりも猫の方が大事なの?」
あの時私はいったい何と答えたのだろう。
そうだ。
うちに帰って猫たちにえさをやらなくちゃ。
私には帰らなくてはいけない家があるのだった。
夕方の空はどこまでも晴れわたっていて、なんだか、胸を苦しくさせるのだった。
読んでくれた方、ありがとうございます。
では、さようなら。